■ 「男女平等」めぐる対立の果て!? 2005/04/14
放送
大阪府下のある自治体で、女性の社会進出を推進する施設の館長が辞めることになり、裁判にまで発展しました。その騒動の裏には、“男女平等”をめぐる思想対決がありました。政治家も巻き込んだ、「男と女」のあるべき姿の大激論です。
稼動式のホールに、ライブラリーや託児室など、男女平等をすすめる拠点施設「すてっぷ」。
豊中市が駅前の一等地に、総額52億円を投じて完成させた。初代館長は、全国60人以上のなかから公募で選ばれた三井マリ子さん。北欧のノルウェーに学んだ女性政策では、カリスマ的存在だ。<三井マリ子さん>「公募で選ぼうとした。そして、私を選んでくれた。本当に素晴らしい豊中市だなあって」
ところが、希望にみちた就任から一転して、三井さんが豊中市を訴える異常事態となる。男女平等にむけた取り組みの裏で、何があったのか。
6年前に成立した『男女共同参画社会基本法』。男は仕事、女は家庭といった固定的な役割分業意識、つまり社会的に形成された性別「ジェンダー」の視点にとらわれることなく、男女とも能力を発揮できる社会にしていく、とうたっている。この法律を広めるために、豊中の館長となった三井さん。非常勤という形だが、男女平等政策で少子化を克服したノルウェーの政治家らを招くなど、すてっぷの知名度をあげる活動を展開、新聞紙面などを飾った。<三井マリ子さん>「国連の調査で、男女平等度が高い国ほど出生率が高い。無理なく子育てもしながら仕事も続けられるヨーロッパのような仕組みは作れる」しかし、女性も働きやすい社会へと訴える三井さんに対し、異議を唱える議員がいた。豊中市議会の北川悟司議員だった。<北川悟司議員>「オスとメス、男と女というのは我々が有史からずっとあるわけですから、男性は小さいうちから男性の自覚を、女性も自覚を育てていくべき」
三井さんと北川議員。男のあり方、女のあり方をめぐる考え方は、真っ向から食い違う。<三井さん>「圧倒的に日本の男性の家事育児時間が少ない」<北川議員>「もっともっと女性は家庭を子どもを大切にして、そして、いい子どもを作って下さい」<三井さん>「“産みたくない人もいていい社会”が必要。ただ、日本の今の社会は、産みたくても産めない社会」<北川議員>「結婚しなくても子どもを産まなくても幸せだ、という女性が急激に増えてきている」<三井さん>「女性の議員率はわずか6〜7%。女性の声が物事を決める場に反映していない」<北川議員>「(三井さん側の主張は)マルクス・エンゲルス(旧ソビエト)の思想にある、女性を解放しましょうと、育児から解放しましょう、家事から解放しましょうと、一種いわゆる社会革命です」
男女平等社会の実現をめざす「すてっぷ」への批判はエスカレートしていく。“ジェンダーフリーは危険思想”というテーマのセミナーが「すてっぷ」に申し込まれたり、「女性の敵」と中傷するビラが市役所前などで配られた。<豊中市の女性職員>「あっ、いよいよ来たかな、という感じがしましたね。本当にジェンダーフリーのフリーがフリーセックスにつながるとか、こんな攻撃があってもそんな簡単には(すてっぷと市の結束は)崩れないだろう、という思いがみんなの中にあった」しかし、事態は急変する。ある夜、三井さんが市役所の会議室に呼ばれ、そこに北川議員とビラを配った市民らが同席した。そこで問題にされたのが、すてっぷの内部文書が外部に流出した、ということだった。文書は、議員の議会発言や特定の市民の動きを、男女平等推進を妨げるものとして報告していた。グループ名をあげられたメンバーが反発、すてっぷと担当課長らを、3時間にわたって激しく批判した。〜訴状などから再現〜<市民1>「すてっぷは三井カラーに染まっている」<市民2>「事務局長は市の職員でしょ。公務員として中立であるべき」<市民3>「三井さんを館長にしている市の責任を問題にしてるんです」<議員>「市はどうなんだ」(机をバーンと叩く音)<北川悟司議員>「もうちょっとしっかりしろよ、そういう趣旨の発言は確かにした。叱ったかもわからん。」(Q・机をバーンと?)「いやいや、しない、しない。まてよ、なんかバーンと、あったかもわからんなあ」
北川議員が行動を起こしてわずか1ヵ月後、豊中市は三井さんの後任の館長に、寝屋川市の専門員を内定した。本来なら、すてっぷの理事会で決まる組織変更が、2ヵ月も前に決定していたことになる。<寝屋川市の元職員>「これはまだまだ内密な話なので。豊中市の次の理事会が終わるまで、絶対に外にもらしてはいけないと言われた。その話が終わった後、(上司が)ぽろりと最後にひとこと、三井さん更迭や、と言った」こうして、三井さんはすてっぷ館長の座を去ることになった。<三井マリ子さん>「女性の地位向上を目指す組織がこういう仕打ちをした。この私の悔しさは多くの女性が味わっている」三井さんは、豊中市が様々な圧力に屈し、自分をはずしたと訴えているが、北川議員はこう釈明する。<北川悟司議員>「彼女が“圧力”と感じたかどうかはわからないが、それは三井さんの感じ方で、私としてはしていない」だが「すてっぷ」にたびたび抗議に訪れていたグループの代表は、北川議員と親しい人物だった。ある女性はこう証言する。<人物と接した女性>「自分がひとこと言ったら街宣車が行くぞ、いいのかっていうふうにですね。誰にとっても威圧感ですかね。相手に対するどう喝、というか、攻め方に大変慣れていらっしゃる方だなあと思いました」政治活動をしているこの人物は、MBSの電話取材に次のように反論した。「僕は右翼の街宣車、持ってませんよ。うちはふつうのハイエース。脅かされたっていうならなんで警察に言わないの。大きな声でお願いする。これは合法でしょ。僕は違法行為は一切しません。合法は一杯、一杯やりますよ」一方、豊中市は・・・。<豊中市人権文化部・本郷和平部長>「(三井さん側の)誤解や事実誤認は、豊中市としてもきっちり裁判の見解のなかで述べていく」
いま、特定の宗教やメディアが、男女共同参画とジェンダーの問題への批判を強めている。そして、こうした男女共同参画という考えに対するバッシングは、地方議会を中心にここ数年、全国各地で増えていて、行政や女性グループの間に不安が広がっている。
<東京大学社会科学研究所・大沢真理教授(先月の東京弁護士会のシンポジウムで発言)>「つまり、いろいろな地域で同時多発、自然発生なのではなく、どこかに“司令塔”がある」敗戦によって作られた憲法で、男女平等が認められてちょうど60年。憲法の改正議論と呼応するように、男女の役割をはっきり区別し、家族の大事さを強調する政治家が多い。<西村真悟衆議院議員>「女性が家庭を維持するために大きな役割を担っている。これ当たり前じゃない。私、あえて申しますよ。世の中で一番素晴らしいことは、愛する子どもを育て
ることですよ。このことがなかったら、社会自体も存続しません。女性が安心して出来るよう、男はある意味、命を捨てても働くということ」〜豊中駅前・市民の声〜<男性>「将来は自分の稼ぎだけではやっていけないので、共働きになると思います」<女子高校生>「女の人が働くと決めたんなら、男の人も子育てすべきだと思う」<男性>「リタイアして思いますけど、家庭の仕事がどれだけ大変か、よ〜くわかりました」
男女がお互いに協力しあって、それぞれに個性や能力を発揮できるようにする“男女共同参画社会”。ごく当たり前のテーマを前に、戦後60年の「揺れ」にさらされる日本の現状が映しだされている。