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 教育ニュース1618号(H20-11-25)

「偏向教育」 の批判本を出版した三都議に「意見・評論の域」との判決確定 
最高裁が原告の元教員の
上告退ける


 最高裁判所第二小法廷(今井攻裁判長)は十一月七日、東京都議会議員三人が共著した本で名誉を傷つけられたなどとして、東京都議の三人と出版社を相手どり、元東京都の教諭が損害賠償を求めていた裁判で、原告である増田都子元教諭の上告を退ける決定を行った。
 都議三人が共著した「こんな偏向教師を許せるか!」は、増田元教諭(平成十八年「分限免職」)が平成九年ごろ、当時勤務していた東京・足立区立足立第十六中学校において、沖縄米軍基地問題を取り上げた授業で、米軍を一方的に非難したことや、この授業に疑問を呈した母親を中傷したことなどを初めとする増田元教諭の授業等の態度に対し「洗脳教育」と批判したものである。
 一審の東京地裁では、増田元教諭が「名誉棄損と訴えた二七か所の記述のうち十三か所での訴えを認めたが、二審の東京高裁では「意見・評論の域を脱したと言えない」と逆転判決を下し、最高裁でも増田元教諭側の上告を退けたものである。

〈増田元教諭の「偏向教育」〉
昭和二十五年生れで、同四十七年に島根大学を卒業した増田都子(ますだみやこ)元教諭は、平成九年六月に社会科教師として勤務していた東京・足立区の区立足立第十六中学校において、沖縄の米軍普天間基地問題を取り上げた「紙上討論」と呼ぶ授業を行い、生徒に五点の資料を示し、生徒はこれに基づいて討論を行った。ところが増田教員が示した資料は、四点までが米軍基地を批判するもので、一点だけ「沖縄の米軍基地は必要」とするものが入れられていた。
 この授業を受けた生徒の一人に、アメリカ人の父親を持つ女子生徒がおり、増田教諭の授業が一方的であることを知った母親は教育委員会に相談している。
「あなた達の親の一人が『先生はけしからん教育をして いる』という内容の電話を教育委員会にしたようです」「『事実』をきちんと教えて これを知った増田教諭は、いる私を『偏っている』というのはこの親が『偏っている』証拠」と述べ、さらに「自分の『思想』が教師の『憲法に忠実な思想』に合わないからと、教師の教育内容に介入しようなど笑止千万なあまりにも『アサハカな思い上がり』」とするプリントを作成し、これを教材として授業で生徒に配布した。
 父親がアメリカ人の女子生徒は、結局、転校に追い込まれており、母親は増田教諭を相手取り、授業で配布したプリントの内容が誹務中傷にあたるとして名誉棄損で告訴した(平成十二年九月二十八日、最高裁で『増田教員の行為は名誉棄損にあたる』との判決が確定したが、損害賠償については増田教諭個人ではなく、使用者の東京都に対して請求すべきである、とされた)。
 平成八年二月十一日の共産党機関紙「赤旗」に「熱心な赤旗の読者」と寄稿している増田教諭であるが、東京都教職員組合(全教加盟)の足立支部執行委員会は平成十年十一月二十日に「声明」を発表し、増田教諭の行った生徒の母親を誹誘するプリント配布を批判したうえで「「平和教育の実践』という名目で子どもの心が傷つき、人格が損なわれたりしてはならないことは言うまでもない」と述べ「独善は改めなければならない」とまで言及した。
 また、同年十一月二十五日の「赤旗」では、「足立一六中教諭名誉棄損裁判」の見出しの下に、共産党色の強い足立区教職員組合の声明を引用し、「(増田教諭の支援組織の)『平和教育を守る足立の会』の運動とまったく無関係です」との記事が掲載された。
 これにより、それまで全教系の足立区教職員組合に加入していた増田教諭は組合を脱退し、「増田さんとともに平和教育をすすめる会」を中心に「東京都学校ユニオン」を立ち上げ、「全労協」に加盟した。
 平成十年十一月十七日には、増田教諭は「母親に対する「人権侵宝己」を理由として「減給一O分の一、一か月」の懲戒処分を受けた。
 これに対し増田教諭は翌年三月、学校備え付けのPTA名簿を利用し、足立第十六中学校の全保護者宛に処分批判、被害者である生徒保護者批判の文書を送付したが、印刷には学校の機材を無断使用した。
 足立区教育委員会の事情聴取に対し増田教諭は、PTA名簿の無断使用を認めたうえで、「処分を報じた産経新聞の記事の嘘をあばき、正しい情報を天下に知らしめるため」に行った、「今回の件の道義的責任はあなた方(区教委)にある」と強弁している。
 この報告を受け東京都教委は平成十一年七月二十八日付で、増田教諭に対し「信用失墜行為」を理由とし、「減給一O分の一、一か月」の懲戒処分を発令した。さらに、八月二十七日には、「研修命令」を発令し、都立教育研究所での研修を命じたが、増田教諭は「このような辞令は受け取りたくない」と発言したり、研修日誌に十六中校長批判を書いて読み上げたり、研修報告書を十六中生徒に配布するなど指導に従わない行為がみられ、「研修の成果が上がらない」などとして平成十二年四月と十三年四月の二回にわたり「再研修」「再々研修」が命ぜられている。

〈三都議が展転社から「こんな偏向教師を許せるかl」刊行〉
 平成十二年十一月十日、東京都議会の古賀俊昭(自民党)都議、田代博嗣(自民党)都議、土屋敬之(民主党)都議の三議員は、増田教員の長期にわたる学習指導要領違反、就業規則違反等に対し「教育の危機」との重大な懸念を持ち、足立十六中事 件とも呼ばれる足立第十六中学校での増田教員の授業内容を中心に、「こんな偏向教師を許せるか!」を共著し、展転社から出版した。
 二年七か月にわたる研修の後に、現場復帰・転勤となっていた増田教諭は平成十七年には、勤務先の東京・千代田区立九段中学校における授業の中で、韓国の慮武鉱大統領の演説、増田教諭が書いた慮大統領への手紙などを「資料」として配布したが、その中で扶桑社の「新しい歴史教科書」や、都議会における古賀俊昭都議の発言を取り上げ「歴史偽造主義・歴史改造主義者」と決めつけた。
 これを不適切とした都教委は、平成十七年八月三十日付で増田教諭を、「信用失墜行為」として戒告の懲戒処分を行った。
 さらに九月一日付で、千代田区立教育研究所における研修命令を発令し、九月二十日には東京都教職員研修センターでの研修命令を発令している。
 しかし平成十八年三月三十一日、「研修により改善の余地がない」として「分限免職」処分が発令された。
 増田元教諭が現職中に受けた処分は、研修命令を含め計九回となる。それは、@「人権侵害」で減給一O分の一、一か月(Hm・日)、A「信用失墜行為」で減給一か月(HH・7)、B都立教育研究所での研修命令(HH・91)、C 再研修命令(Hロ・41)、D再々研修命令(EU・4j)、O平成十四年四月一日O分の一、から現場復帰・転勤、E「信用失墜行為」で戒告処分(Hη・8)、F千代田区立教育研究所での研修命令(HU・9・11)、B都教職員研修センターでの研修命令(HU・9・mj)、B「分限免職」処分(HM・3・訂付)ーである。
 増田元教諭は、東京都教育委員会が行った「処分」について、次々に「処分取消」を求める訴訟を起こしているが、ほとんどが増田元教諭の敗訴となっている。@、A、Cの三件に対しては、地裁・高裁・最高裁のいずれも増田元教諭の請求を棄却し、確定している。
 また、Bについては、地裁で却下され、これが確定したーなどである。古賀俊昭都議など三人の共著である「こんな偏向教師を許せるか!」に対しても、本の二十七か所が「名誉棄損、プライバシー侵害」にあたると主張して、損害賠償を求めて平成十四年に提訴している。
 東京地裁の民事第一部(遠山庚直裁判長は転補のため、松長一太裁判官が判決言渡
し)は平成十九年四月二十七日、増田元教諭の主張のうち十三点につき名誉棄損とプライバシl侵害が成立するとして、三都議と展転社に対し計七十六万円の損害賠償を行うよう命じた。
 しかし、二審の東京高裁(大谷禎男裁判長)は平成二十年三月四日、「意見、論評の域を逸脱したとは言えない」として、一審の判決を取り消し、増田元教諭の請求を棄却する判決を下した。
 この二審において、三人の都議が「こんな偏向教師を許せるか!」の出版目的について尋問に答えているが、その要旨は次のとおりである。
 平成五年に都議に初当選した古賀俊昭都議は、「増田教師の授業は、個人を主体とする利己的な生き方が過度に強調され、公・社会・家庭という位置づけを低めようとする教育方針であり、中学生の社会科の学習目的にてらし適切なものとは考えられない。特に、増田教師の授業方法は、一方的見地に立って編纂された資料を基にしており一定の手順を踏めば必ず特定の結論にたどりつく形式の連続討議を行っていることから、生徒は最後に感想で『多くの学校で本当のことが教えられていないのは悲しい』として社会科の教科書批判を行っている。これは、激しい思想の強制であり、放置しておく訳にはいかない」と述べた。
 また、世田谷区医師会会長で平成九年に都議初当選の田代博嗣都議は、「義務教育であり、かつ公教育機関である中学校は、多面的な資料を与え理解を深めることが重要である。答えがそこにしかない授業運営は、生徒の一生をトラウマ症状に引きずり
込む行為であり、そのようなことは根岸病院部長経験者として、許すことが出来ないのである。被害者生徒の母親の手紙を公開し、「アサハカな思い上がり』と批判するような独断的行為を除去するのが、議会人としての責務である。陰湿ないじめで、生徒を傷付ける教師が存在することを、 版の目的である」と述べている。一般の人に幅広く知らせたいというとが出 さらに、平成九年に初当選の土屋敬之都議は、「『地震は天災だが、沖縄の米軍基地は人災』というようにスローガン化して教える増田元教諭の手法に対し、ある生徒が『基地は必要』と勇気をもって反論したところ、増田元教諭は猛烈な反論をしたばかりでなく彪大な資料を出したりしている。増田元教諭が作成する学習資料は、校長に承認を受けることになっていたのに、それが守られていない。このような教師が、何回も処分を受けながら、それでも教壇に立ち続けることが許されるようなことは放置できないと考えたからだ」と述べている。
 第二審の判決を不満とした増田元教諭は上告したが、平成二十年十一月七日、最高裁第二小法廷(今井攻裁判長)は、原告の上告を退ける決定を下し、増田元教諭の請求を棄却した二審・東京高裁の判決が確定した。
 増田元教諭は、この損害賠償請求訴訟の他にも、自分に対する批判に対する名誉棄損・損害賠償請求訴訟や、東京都教委による懲戒処分や分限免職処分の取消し請求訴訟など多くの裁判をかかえ、「裁判マニア」との声も聞かれる。
 この増田元教諭を支援するグループもあり、▽増田さんとともに平和教育をすすめる会、▽がくろう埼玉、▽安保と基地をなくす会、▽国労深川闘争回、▽都教委による再雇用拒否違法訴訟原告・首切りを許さない葛飾の会、▽教科書兵庫県ネット紅、▽日の丸・君が代を考える埼玉市民連絡会ーなどである。