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三島由紀夫が生きた時代 | 500W |
プロローグ 平成二十五年十一月、二宮報徳会の招きで靖国会館において講演をする機会があった。演題は 「日本はいつからこんな国になったのか?」。宣伝チラシには「拉致、教科書、慰安婦、強制連行、 尖閣、南京虐殺・・・・・こんな重荷を日本は、いつから背負う事になってしまったのか。運命の分かれ目 は昭和四十五年十一月二十五日の三島由紀夫の蹶起だったのだ!」とキャッチコピーが書かれてい た。 講演冒頭、私は三島由紀夫と共に蹶起して自決した森田必勝さんについて聴衆に尋ねた。 「森田必勝さんをご存じの方は手を挙げて下さい」 手を挙げたのは約半数に過、ぎなかった。約百五十人の聴衆は皆所謂庁"保守派"の人たちである。 年齢層も高く、しかも「憲法を改正し自衛隊を国軍にすべき」と考えている人たちの集まりのはず だ。私は愕然とした。昭和四十五年の蹶起からその時点で四十三年。あの蹶起以来、私は内心「何 十年経っても毀誉褒貶甚だしいだろうなあ」と思ってきた。しかし予想は大きく外れた。毀誉褒貶 どころか森田さんは完全に忘れ去られようとしている。 このままで良いのだろうか。末席とはいえ楯の会の会員だった自分にやるべき事はないのか。三 島先生の蹶起の時の会員に対する命令書に「三島はともかく森田の精神を後世に向かって恢弘せ よ」とある。もとより楯の会随一のヘタレ、怯儒、弱卒の私などに、森田さんの精神を恢弘する 事などできはしない。しかし後世に「こういう素晴らしい青年がいたんだ」と語り遺したい。一人 でも多くの方に森田さんの存在を知っていただきたいと思うようになってきた。 この日初めて私は三島由紀夫先生と森田必勝さんの蹶起について一時間半語った。しかし自分が 楯の会の会員だったことは話さなかった。まだ話せる気持ちになっていなかったのである。 半年後の平成二十六年八月、株式会社キャリアコンサルティングの室館勲社長のご厚意で若い 男女四百人の前で講演をする機会を得た。講演会場で、初めて自分が楯の会元会員であることを明 かし、三島由紀夫先生と森田必勝さんの話をした。 そして青林堂の渡辺レイ子編集長にその話をしたところ、三島由紀夫生誕九十年残後四十五年を 期して、本書刊行の運びとなった。 これを機会に読者が森田必勝さんのことや楯の会に興味を持っていただけたら幸いである。 村田春樹 |