春の花

訴 状

 



令和元年10月4日
大阪地方裁判所 御中           
            
               原告訴訟代理人   
                  弁護士  清  河  雅  孝

                 弁護士  德  永  信  一
             
                 弁護士  岩 原 義 則
        
                      
                  

当事者の表示   別紙当事者目録記載のとおり 


台湾人日本国籍確認請求事件  
  
  
            訴  額   4,800,000円 
            貼用印紙      29,000円 
  

請求の趣旨 
        
1 原告楊馥成(以下「原告楊」という。)が日本国籍を有していることを確認する。 
2 原告許華𣏌(以下「原告許」という。)が日本国籍を有していることを確認する。 
3 原告林余立(以下「原告林余」という。)が日本国籍を有していることを確認する。 
4 訴訟費用はいずれも被告の負担とする。
との判決を求める。                  
           
請求の原因 
      
1 当事者          
 原告楊、原告許、原告林余の生年月日、出生地、両親の国籍、生活歴等は別表1~3記載のとおりである。いずれも戦前、当時日本の領土であった台湾において、日本人の両親の間に生まれて日本国籍を取得し、家庭の内外において日本語を用い、日本人として成長した。
原告楊は第七方面軍野戦貨物廠の陸軍軍属として従軍し、原告林余は、海軍軍属として岡山61海軍航空工場に配属され、昭和19年に海軍志願兵として合格し、左営海兵団の整備兵として服務し、いずれも日本人として大東亜戦争を闘ってきたが、昭和20年(1945年)8月15日、台湾において終戦を迎えることなった。原告許は、その当時、地元にある新屋国民小学校の6年生であった。   
原告らは、当時もこれまでも、日本人として生まれ育った自らが日本人であることに誇りをもち、日本人として生きていた。しかるに、日本政府は、原告らの意思とは無関係に、サンフランシスコ平和条約又は日華平和条約の発効をもって日本国籍を喪失したものとして扱ってきた。 
 
2 平和条約に伴う国籍離脱の扱い 
   サンフランシスコ平和条約(正式名称は「日本国との平和条約」)は、昭和26年(1951年)9月8日に締結され、昭和27年(1952年)4月28日に発効し、日本は独立を回復した【甲1】。同日、日本は台湾を信託統治していた中華民国と日華平和条約を締結し、同条約は同年8月5日に発効した【甲2】。   
   サンフランシスコ平和条約も日華平和条約も、それまで日本国籍を有していた台湾系日本人の国籍の取扱いに関する直接の規定をもたないが、日本政府は、サンフランシスコ平和条約の発効にともない、日本は、台湾に対する領土主権のみならず、台湾系日本人に対する対人主権も放棄したという解釈をとった。   
その結果、日本に在留する台湾系日本人は、これら平和条約の発効に伴い、国法上、国籍を離脱した者として扱われることになり、法務府民事局長は「平和条約の発効に伴う朝鮮人台湾人等に関する国籍及び戸籍事務の処理について」と題する通達(昭和27年4月19日付)を発し【甲3】、平成3年法律第71号「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(入管特例法)」の対象とされている。 

3 最高裁昭和36年4月5日大法廷判決   
最大判昭和36年4月5日・民集15巻4号657頁は、朝鮮人男子と婚姻した内地人女子が日本の国籍を有することの確認を求める請求を棄却した東京高裁判決を支持したものである。その論理は次のようなものである。
サンフランシスコ平和条約は、第2条a項で、「日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権限及び請求権を放棄する」と規定し、朝鮮の独立を承認して、朝鮮に属すべき領土に対する主権を放棄することを規定している。この規定は、朝鮮に属すべき領土に対する主権(いわゆる領土主権)を放棄すると同時に、朝鮮に属すべき人に対する主権(いわゆる対人主権)も放棄することは疑いをいれない。朝鮮の独立を承認するということは、朝鮮がそれに属する人、領土及び政府をもつことを承認することにほかならない。したがって、平和条約によって、日本は朝鮮に属すべき人に対する主権を放棄したことになり、朝鮮に属すべき人について、日本の国籍を喪失させることを意味する【甲4】。
ところで、サンフランシスコ平和条約は第2条b項で「日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権限及び請求権を放棄する。」としたが、放棄された台湾の主権がどこに帰属するかは明確にされず、同条a項や第21条のいわゆる「朝鮮条項」のように、直接独立が認められることもなかった。   

4 最高裁昭和37年12月5日大法廷判決 
台湾人男子と婚姻した内地人女子につき、外国人登録法の適用に関し、台湾系日本人の日本国籍の離脱が争点となった事案につき、最高裁大法廷判決昭和37年12月5日・刑集16巻12号1661頁は、日華平和条約第2条の発効により、日本国籍を離脱したとするが、日華平和条約では、サンフランシスコ平和条約に基づき、台湾、澎湖諸島、新南群島および西沙群島の一切の権利や請求権を放棄することが改めて承認されたが、放棄された台湾の主権がどこに移ったのかは明らかにされていない。 
したがって、前記最高裁判決の論理をもってしては、サンフランシスコ平和条約の発効をもって台湾系日本人が日本国籍を喪失するという論理は導きだせない。もっとも領土の放棄とともに対人主権も放棄したという主張がありえるが、これもまた失当である。けだし、当該日本人につき、新たな国籍がないまま、日本国籍を放棄するということは、無国籍者を創出することになり、そのことは日本の国籍法及び国籍に関する国際法上の原則に反するからである。  

5 世界人権宣言15条と日本国憲法13条            
   国連は、1948年12月10日に第4総会で「世界人権宣言」を採択した。世界人権宣言は、国連憲章に記された「人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守」のためにすべての加盟国が「共同及び個別の行動をとることを誓約」を具体化するために採択されたものである。    
世界人権宣言は、その15条において国籍を人権として位置づけている。すなわち、1項において「すべての人は、国籍を持つ権利を有する。」とし、2項において「何人も、ほしいままにその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない。」と規定している。   
現在の世界において、人はいずれかの国家に所属し、そのことによって生命安全の保護と基本的人権の保障を受け、政治的ないし社会的権利を行使しうる地位を有するのである。それは国籍があらゆる人権の基盤であることを意味する。世界人権宣言は、国籍の人権保障における基盤性に着目して、ほしいままに国籍を奪われることはないとしたのである。    
世界人権宣言第15条の趣旨は、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を保障する日本国憲法13条の解釈にも活かされるべきことは当然である。国籍は個人の人格的存在に必要不可欠な基盤的利益として幸福追求権の内容として保障されるのであり、本人の同意なしに剥奪されることはないということを帰結する。      

6 原告らの日本国籍について    
   原告らは、日本人として生まれ、日本人としての誇りとアイデンティティをもって生きてきた。日本国籍は、原告らの日本人としてのアイデンティティとその人格的生存の中核を占めている。  
   前述したように、原告ら台湾系日本人がサンフランシスコ平和条約の発効、或いは、日華平和条約の発効をもって日本国籍を喪失するという論理は不文明のままである。そして日本国憲法10条は、日本国民たる要件は、法律でこれを定めるとするが、台湾系日本人の国籍について定める法律はなく、国法上、台湾系日本人がサンフランシスコ平和条約の発効によって国籍を離脱することを前提とした前記通達があるだけであり、原告らの日本国民としての地位については、甚だ曖昧なままである。 
他方、国籍が基本的人権の基盤的利益であり、世界人権宣言が人権として宣言し、日本国憲法の幸福追求権の内容であることに照らすならば、今も変わらず日本人としてのアイデンティティをもって生存している原告らの基本的人権としての日本国籍を喪失させる論理はないといわざるをえない。 
   したがって、原告らは、生まれたときと変わらない日本人であり、日本国籍を持ち続けるのである。              

7 まとめ      
   よって原告らは日本国籍を有することの確認を求め、本訴に及ぶ次第である。       
  

証 拠 資 料 
 
 1 甲1  サンフランシスコ平和条約
 2 甲2  日華平和条約 
 3 甲3  法務府民事局長通達  
 4 甲4  最高裁昭和36年4月5日大法廷判決
 5 甲5  最高裁昭和37年12月5日大法廷判決
 

附 属 書 類

1 訴訟委任状      3通
2 甲号証(写し)   各1通
以上

当 事 者 目 録

台湾台北市中正区青島東路7号3楼之5
原 告  楊   馥  成

台湾台北市信義區荘敬路325巷41號三楼
原 告  許    華  𣏌

台湾台中市和平區自由里東崎路2段216號
原 告  林   余  立

〒530-0047 大阪市北区西天満1−8−9ヴィークタワーOSAKA2406
清河法律事務所
上記原告3名訴訟代理人
弁護士 清  河  雅  孝

(送達場所)
〒530-0054 大阪市北区南森町1丁目3番27号 南森町丸井ビル6階
德永・岩原総合法律事務所
電 話 番 号:06−6364−2715
FAX 番号:06−6364−2716
上記原告3名訴訟代理人
弁護士 德  永  信  一
弁護士   岩  原  義  則

〒100-8977 東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被 告     国 
代表者法務大臣  河 井 克 行